
AIに本の完成度を採点してもらう仕組みを使っていると、「高得点=完成」と受け取りたくなります。ただ実際には、AIの採点で「88.3点・全項目合格・リリース可」と判定された本を、自分で最初から最後まで通し読みしたところ、直す箇所が20項目出てきました。この記事では、AIの点数に映らなかった不備の種類と、それを踏まえて「人間の通し読み」を出版前の最終工程に固定した理由を、実例をもとにまとめます。
以前、「AIに本の採点をさせたら、点数の足し算そのものが間違っていた」という話を書きました(AIに本の完成度を自動採点させたら、点数の足し算そのものが間違っていた話)。今回は、点数計算に問題がなくても、今回の採点では拾えない不備があった、という話です。
AIの採点で「リリース可」が出た本
私はKindleで「AIエージェントにまかせる」というマンガ入りのシリーズを作っています。原稿・マンガ・図解・電子書籍ファイル(DOCX/EPUB)が揃った段階で、AI(Codex)に10項目の採点基準で評価してもらい、点数と指摘をレポートに書き出してもらう工程を入れています。
7冊目にあたる「マンガでわかる AIエージェントに介護をまかせる」は、この採点で総合88.3点、10項目すべて合格、判定は「リリース可」でした。あとはKDPに登録するだけ、という状態です。
ただ、私は出版前に、毎回自分で全編を通し読みしています。AIの点数は一次チェックであって、合格判定として扱わない、というのが以前の記事で書いた運用です。今回もそのとおりに通し読みをして、気になった箇所を書き出したところ、約20項目になりました。
通し読みで見つかった20項目の内訳
見つかった項目を種類で分けると、次の4つに整理できます。なお、最初に挙げる「制作メモ30行」は、まとめて1項目として数えています。
1. 制作用のメモが本文に残っていた
原稿ファイルの各節末尾に、その節の図解を作るための指示メモを1行ずつ書き込んでいました。「この節の図解は、こういう内容にする」という、制作側にしか意味のない一文で、全部で30行です。
電子書籍ファイルに組み立てる際、このメモの目印となる記号だけが取り除かれ、メモの本文が通常の段落として表示されていました。読者から見ると、節の最後に唐突に「図解:〜」という制作指示が出てくる状態です。
原因は、以前の本で使っていた雛形にこの記法がなく、組み立てスクリプト(Claude Codeと一緒に組んだものです)の側に「この行は出力しない」という処理が存在しなかったことでした。以前の本では表面化しなかった問題が、記法を1つ増やしたことで発生していたわけです。
2. 登場人物の口調が設定とずれていた
この本には、主人公に介護の進め方を教える「先輩」役の人物が登場します。主人公は47歳、先輩は年下という設定です。
ところがセリフを追っていくと、「中野くん」「〜してごらん」といった、年上が年下に教えるような口調になっている箇所が7つありました。キャラクター設定のファイルには年下と明記してあるのに、セリフだけがそれに合っていない。文章として不自然ではないため、読み流すと気づきにくい種類のずれです。
3. マンガの絵が前後のページでつながっていなかった
もっとも件数が多かったのがこの種類です。
- 電車のロングシートの座席が、1ページ目と2ページ目で別の構図になっている
- 座っていた人物が、次のコマでは立っている
- 人物の腕が3本に見える
- 部屋のランプの形と位置が、上のコマと下のコマで異なる
- 部屋着が、同じ夜の場面なのにページごとに変わる
- 主人公のノートが、あるページだけ別の形になっている(見開きのリング綴じだったものが、単ページのメモ帳になっている)
いずれも、1枚だけを見れば絵として成立しています。続けて読んだときに初めて違和感が出る、という性質のものです。
4. 奥付がなかった
既刊にはすべて入っていた奥付が、この本だけ抜けていました。これは単純な漏れです。

なぜ採点で拾えなかったのか
採点の10項目は、構成・文章・図版・法令のチェック・ファイルの完成度といった観点です。論理の矛盾や、法律に触れそうな表現については、これまでも的確に指摘してくれていました。
一方で、今回の採点方法では、「読者としてページを順番にめくったときの違和感」までは十分に確認できていなかったようです。それぞれの不備が引っかかりにくかった理由は、次のように整理できます。
- 制作メモの残り:文章として読めてしまうため、異常な段落として検出されにくい
- 口調のずれ:文法として正しいため、文章品質の項目では減点されにくい
- 絵の連続性:1枚ずつの破綻は確認しても、「前のページと同じ部屋か」「直前のコマで座っていた人物が今どうしているか」までは見ていなかったと考えられる
つまり、今回見つかった項目は、点数が低かったのではなく、今回の採点基準では点数に反映されにくい種類のものでした。正直に書くと、全項目合格と出た時点で少し安心していたので、この差は自分にとって大きな気づきでした。
修正後の再採点は「+0.8点」
本文を修正し、マンガは26枚を描き直し、電子書籍ファイルを再ビルドしてから、同じ基準でもう一度採点してもらいました。結果は総合89.1点。修正前の88.3点から0.8点上がっただけです。
約20項目を直しても、点数はほとんど動きませんでした。これは「直した箇所が今回の採点基準では点数に反映されにくかった」ことの裏付けでもあります。逆に言えば、どれだけ高得点でも、点数に出にくいところに読者が気になる不備が残っている可能性は否定できない、ということです。
通し読みを最終工程に固定した
この件を踏まえて、出版する本はAIの採点が何点であっても、最後に自分で全編を通し読みする工程を、シリーズ全冊の手順として固定しました。あわせて、組み立てスクリプト側にも「制作用の記法を素通りさせない」処理を追加し、同じ種類の漏れが再発しないようにしています。
AIに任せる範囲は今後も広げていくつもりです。ただ、任せる範囲が広がるほど、最後に人間が読者の目で読む工程の意味がはっきりしてくる、というのが今回の実感でした。出版物である以上、そこは自分で持っておきたいと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q. AIの採点は意味がないということですか?
A. そうは考えていません。必須の章の抜けや、法律に触れそうな表現、論理の矛盾は、AIの採点で何度も拾ってもらっています。今回の話は、AIの採点が見ている範囲と、読者として気になる範囲が違う、という整理です。役割が違うので、両方やっています。
Q. 通し読みにはどのくらい時間がかかりますか?
A. 本の長さによりますが、マンガ入りの本1冊で数時間程度です。20項目の指摘を書き出してAIに渡し、修正と再生成をしてもらう時間は別にかかります。ただ、公開後に読者から指摘されるより、はるかに安く済むと考えています。
Q. マンガの絵の連続性は、AIで自動チェックできないのですか?
A. 1枚ずつの検品(腕の本数・文字の崩れなど)はAIに任せていますが、「前のページと同じ部屋か」といった複数ページにまたがる確認は、現時点では自分の目で見る方が確実だと感じています。ここは今後の改善点です。
まとめ
AIの採点で「88.3点・リリース可」と判定された本を自分で通し読みしたところ、制作メモの残り・登場人物の口調のずれ・マンガの絵の連続性・奥付の抜けという、約20項目の直しが見つかりました。いずれも、ページを順番に読者として読んだことで見つかったもので、今回の採点基準では点数に反映されにくいものでした。修正後の再採点は89.1点と、ほとんど動いていません。
高得点は「今回の採点で見た範囲では問題なし」という意味で受け取り、最後に人間が通し読みする工程を出版前の手順に固定する。AIに任せる範囲を広げるほど、この最後の工程の価値が上がる、というのが今回の学びです。
今回の本はこちらです:マンガでわかる AIエージェントに介護をまかせる

